獅子(ジョウバ)は子どもをからかって追いかける。子どももわざと罵り、追いかけさせる。そして、逃げ切るのが面白いのだ。
さてその時の罵り歌があったはずだが、思い出せない。
追いかけられた男の子が獅子頭で殴られたのを見たこともある。獅子の耳が動いて、スコーンと音がした。ものすごく痛かったと思う。なにしろその子はくりくり坊主だったから。
私は殴られた体験はないが、あぜ道を泣きながら逃げたことはある。
何故かその時は女の子ばかり数人、追いかけられたのだ。天津神社の参道を逃げ回って土手下の田圃のあぜ道を逃げて、それでも追いかけてくるので、あぜ道の突き当たりの家の玄関がたまたま開いていたから、女の子全員泣きながら飛びこんだ。
家の人もびっくりしただろう。ジョウバ(の中の人)を宥めて帰ってもらうまで、私たちは泣いていた。
50年以上も前の小学生の思い出だ。今はもう追いかけまわすということはないのだろうか。
中に居るのはただの人だというのは、何の慰めにもならない。獅子頭を被ったとたんにその人は人間ではなく、ジョウバになるのだ。